【note連載】少年の帽子がふわっと飛んできた

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うだるような暑さがひと段落した日、その日は前線の南下で昼過ぎから雨が降る予報だった。

心療内科で薬をもらった帰り道、ビルの外に出ると、びゅうっと強い風が吹いていた。また薬が増えることになってしまった。嘘みたいに晴れていた空が曇っている。

とぼとぼ歩いていると、足元に黒いキャップが飛んできた。
少し前を歩く、二人組の小学生くらいの男の子から飛んできたようだ。駆けてきた男の子に帽子を拾って手渡す。ニコニコと笑いながら「ありがとうございます!」と言い、帽子をかぶりながら友だちのもとへと帰っていく。

とてもしっかりとした「ありがとうございます」だったなぁ、こっちの目をしっかりと見ていたよ、、、と感心していた。

するとまた、びゅっと強い風が吹いた。
また、足元に黒いキャップ。
今度は少し照れながら、男の子が取りにくる。どうぞ、と、こちらも少し笑いながら渡す。
お互い少しヘラヘラしていた。小さく「ありがとう」と言い、逃げるようにピューっと友達のもとへ駆けていく。

青い帽子の子が、黒いキャップの子へ「その帽子よわすぎ!」と言って笑う。言われた子も笑う。笑いながら、ふたりは駆け出した。

空が晴れてきた。
風が止むといいねぇ、と駆けていく黒いキャップを見ながら願う。

気持ちが暗くなりがちな心療内科の帰り道、少年のおかげで少し気持ちが軽くなったよ。こちらこそありがとう。

願わくば、あの子がキャップのサイズ調整という概念に早めに気づきますように。

あと、あの黒いキャップ子と好きな人が100年続きますように、と一青窈のように願った。
ほんわかしすぎて一青窈のような慈悲深さを得た。そんな日。

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